ア ネ モ ネ 国 語 辞 典 100303

 アネモネは僕のニックネーム。僕は自分の国語の授業で生徒たちにじゃんじゃん国語辞典を引かせます。国語辞典は僕の授業の必須ツールです。みんないろいろ違う辞書を持っているので、いろんな語釈が出てきて楽しいのです。単に語句の意味を調べるだけではなく、国語辞典を引くことによって、読解を深めることを目的としてします。
 授業中に辞書を引かせると、全員参加の授業ができます。辞書を引く作業をさせると、授業にリズムが出てきます。辞書によって発見の喜びを知った生徒たちは辞書を引くことを嫌がらなくなります。
 同一の辞書を引かせるのも一つの方法だと思いますが、僕は全員にそれぞれ思い思いの辞書を買わせています。もちろん推薦はしますが。

 辞書によって読解が深まるという体験と、辞書の面白さを少しずつでも記録していこうと思います。

 使用教科書 「中1東京書籍」 「中3東京書籍」、「中3学校図書」(中3は教科書を2冊使っています)

 使用辞書略称 新明解⇒明 学研新国語辞典⇒学 三省堂例解新国語辞典⇒例 広辞苑⇒広 角川必携国語辞典⇒必 


僕が実施するおそらく最後の国語の試験でユニークな答案がありましたので、紹介したいと思います。

二つとも高村光太郎がらみです。有名な「レモン哀歌」です。これを授業でやりましたので、この詩に関する問題を出しました。その中の問題です。

その1、「この詩の題名を書きなさい」 = 「レモン記念日」

「サラダ記念日」もずっと以前の授業で紹介しましたからそれを覚えていたのでしょう。まぁ、ほめてあげましょう。

その2、「道程」の暗唱を授業でやりました。そこで冒頭部分を書きなさいという問題を出しました。

答えは「僕の前に道はない」です。ある生徒の答案。「僕の前に何もない」

これはちょっと衝撃的ですね。中学校3年生の今の心情がそのまま出てしまったのか、笑い飛ばすには、ちょっと切なげでもあります。


はまる

新明解の第六版の「はまる」の用例に次のような例が挙がっています。

「韓国ドラマに嵌まっている」。

すごい用例だと思いませんか?編者の誰かが韓国ドラマに嵌まっていたとしか考えられません。それでないとこのような用例を国語辞典に載せるはずがありません。さっそく生徒にも教えなくっちゃ。
 

百人一首の試験から

これはこのページに書くべき内容ではないのだけれど,他に適切なページもありませんので,ここに書いておきます。

百人一首の1〜10までの下の句の暗記のテストを中間テストに出しました。
そうすると次のような答案が出てきて,思わず大笑いをしてしまいました。

「よはふじやまと ひとはかもねむ」

ね。すごいでしょう。「よをうじやまと ひとは〜」をベースにして,「富士の高嶺」と「長々しよを ひとりかもねむ」が上手にミックスされて,一つの歌に三つの歌が織り込まれたすばらしい答案! 勉強したことがよく伝わってくる答案で,マルをあげたくなりました。

 

「愛のサーカス」の登場人物の名前を辞書で引く

別役実の「愛のサーカス」の登場人物の名前は変わっている。ウルじいさん、クメばあさん、ツマじいさん、団長クグ、スミ奥さん、歌手のヨナ、少年ピピなど。これを単元の最後に、みんなで、辞書で引いてみた。

≪結果、わかったこと≫

いつまでもうるさい<ウルじいさん>
食事を工面する<クメばあさん>
つましい生活、はしけ頭の<ツマじいさん>
ピピを操る傀儡師の団長<クグ>
心の澄み切った牧師館の<スミ奥さん>
夜な夜な歌う<ヨナ>
心が響く<ピピ>

と、まぁ、こんな感じ。作家の創作の秘密にせまるような、面白い追究ができました。子供たちもうれしそうに辞書を引いて、いろいろ想像をたくましくして、発言も活発な授業でした。 

風が吹けば桶屋が儲かる

意味は学習用の辞書にも出ていますが、なぜ「風が吹けば桶屋が儲かるのか」の説明が出ている辞書は三省堂の「国語辞典」だけでした。小型なのにさすが。もちろん広辞苑には出ていますが。

かなしい

これも「角川必携」が活躍。 「かなしき人」は「悲しい人」? 

【かなしい】(古語)<かなし>古くは強い悲哀に限らず、どうしようもないほどの切ない心情をあらわした。この場合、身にしみていとしいという意味で、「かなしき人」といえば恋人・愛人をさした。

授業でいろんな辞書が活躍するのは楽しい。中3の授業でした。

反語

古典の授業で出てくる表現技巧。これを国語辞典で引かせると面白い。「角川の必携」が出色。

【反語】①皮肉な意味をこめて、わざと反対の言い方をすること。アイロニー。たとえば遅刻した人に「ずいぶん早いね」といったりする。②疑問形を使って、話し手が実際はその逆の気持ちを強調する表現方法。「こんな話があろうか」と言って、「こんなひどい話はない」ことを強調する。

ね、両方具体例があがっていて、大変分かりやすいでしょ。それにおもしろい。

卑しい

「わたしの卑しさ」と言うときの「卑しさ」とは何か? 全員に辞書を引かせると、 クラスの子が持っている全ての辞書の「卑しい」の最初の語義としては、「①身分が低いこと」と出ていました。じゃ、「わたし」の身分がひくいの? と聞いてやる。そうすると生徒たちはその後の語義を読もうとする。辞書は最初にのっている語義だけをみて、これだと思ってはいけない、という指導をする恰好の材料になりました。ここでの意味は「欲望むきだしで、いじきたない」。

痛く

「痛く感動する」というところ。「痛い」ってなに? ほんとに痛いの? ということで「痛く」を引かせる。「痛く」で「程度がはなはだしいこと」。「痛い」では「弱いところをつかれて苦しい」などと出ています。「痛い」と「痛く」では意味が違うことも発見です。「痛く」の意味で「痛」を使っている熟語は? 「痛烈」「痛快」「痛感」。
今まで知っている言葉の意味を確認し発見する喜びを、素直に見せてくれるのでうれしい。

下の「今日」を引いて「きょう」の定義が意外に難しいねということになりました。こういう相対的な観念は定義しにくいものです。では「右」は辞書ではどう出ているか、ということになりました。
学研では「北を向いた時、東にあたる方角」というふうに出ています。他の辞書もよく似ていて、絶対的な方角を基準に右を定義しています。個性的なのは「新明解」。第3版には「多くの人がはしや金づちやペンなどを持つ方(の手)」となっていて、第5版では「アナログ時計の文字盤に向かった時に、一時から五時までの表示の有る側」となっていて、辞書の編集者も苦しんでいるのがわかります。
教室全体が爆笑したのはある辞書(その辞書の名誉のために書名は伏せておきます)には「前を向いた時、右手に当る方」。うん。これは爆笑だ。

今日

さて、これを何と読むか? 教科書の本文(論説文など)でよく出てきます。「きょう」と読む場合と「こんにち」と読む場合を前後の脈絡から瞬時に判断して読まなければなりません。「こんにち」と読む場合は「最近」という意味ですが、「きょう」と読む場合の「きょう」とはどう定義していいのかちょっと迷いますね。授業では「今日」が出てきたらよく聞く定番の質問です。

たっぷり  中1「火の風」

「たっぷり1時間かかった。」「たっぷり30キロメートルある計算になる。」「たっぷり水を運んでくれた。」

この3つの文章が教科書本文にありました。何でもないところですが、ちょっとこだわってみました。辞書を引かせてみて分かったことは、上の最初の2文例にピッタリくる語釈を載せている辞書は「新明解」と「学研」だけで後はありませんでした。「学研」の語釈「少なく見積もっても、それだけの数量はあるようす」。
読解の少々単調な授業の中にこういう作業をいれると、授業がイキイキしますね。

青い    中1  「遠景」のなかの「青い絵」とはどんな絵か? 

「青い」を辞書で引かせました。おもしろいですね。こういうのは生徒は好奇心が刺激されて嬉々とします。「青い」には「色のblue」という意味以外にたくさんの意味があることを発見します。辞書の項目を全部読み、この場合どの意味になるか考えようという姿勢を養うには格好の材料になりました。
この場合は、未熟や若いの意味に近いとし、青春の青などを例にあげ、この少女が描いている絵は「未来」や「可能性」や「夢」という意味ではないか、と膨らませていきます。

走るな   文法の授業で

文法の授業でも辞書を引きます。品詞を確認させる時にも辞書を引くと便利だと言うことが分かります。「走るな」の場合、「な」を引かせ、「動詞の終止形に接続し、強い禁止をあらわす」(学)確認します。(明)(必)には動詞の何形に接続するのか説明が載っていませんでした。助詞、助動詞を辞書で引くといろんな意味があるのだと生徒たちは驚きます。

レッテルをはる  「害鳥としてレッテルをはられ、追いまわされてきた」(東書)

「一方的に或る評価・判断を下す」(広)。(学)と(必)には「多く悪い意味に使う」という但し書きがあります。新明解の3版にはそういう但し書きはなかったのですが、5版には「先入観をもって、ある種類のマイナス評価をする」となっています。「マイナス評価」とずばり言い切っているところがすばらしい。

任せる (さんきちが親方から矢を一本任されたというのはどういうことか?) 

「自分では手も口も出さないで、信用できる人にやらせる」(例) さんきちが親方から信頼されていたことを確認できる。「信用できる人に」という説明が入っているのが例解のみ。 

入れ知恵

「ある目的のために、他人に考えや策略などを教えること」(明) 「ある目的」とは何か確認。「ある目的のために」とあるのは新明解だけ。あっても無くてもどちらでもよさそうだけれど、ここではあった方が、授業はしやすかった。

さめざめと泣く

「涙をしきりに流して静かに泣く様子」(学) 泣き方が具体的によく分かる。新明解は「苦衷を訴えながら涙を流して泣きつづける様子」とありますが、ちょっと違う気もします。「苦衷を訴えながら」が引っかかります。「涙を流す」「静かに」という2点を確認。

縮図

「人生の縮図のような言い方で、人生のあるすがたが全部そこに集められている、という意味でも使う」(例)

辞書は一長一短です。この語句に関してはいつも理屈っぽい新明解は「規模を小さくして表したものの意味にも用いられる」とありますが例解の分かりやすさには負けますね。

だから

「まえに言ったりしたりしたことが、あとにおこる結果の原因になることを表す」(例) 因果関係の確認で、こういうよく知っている語句を引かせるのも、いい勉強になります。 
           

  「光をまとって飛んできている」(吉野弘 「生命」)

「人の心に明るさ、希望などを生じさせるもの」(学) 分かりきっている語句を引かせるのはいい勉強になります。生徒たちも新鮮な発見に喜びます。

朝夕

「いつも」。これはどの辞書にも出ています。なぜ昼はないのかというこちらの質問に、生徒がやっきになって答えてきます。

風 「どんなに風が強くとも」(新川和江「名づけられた葉」)

「風当たり」のことで「その人の行動に対する周囲からの非難、攻撃」(学)

 

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