司馬遼太郎「故郷忘じがたく候」を読む  10/5      

<中2、3月の取り組み><1997年3月21日研究授業指導案から>


日 語 科 学 習 指 導 案          授業者 前田 真彦

クラス  建国中学校2年Aクラス 25名 (男子13名、女子12名)

単元  <司馬遼太郎「故郷忘じがたく候」-----エピソードから沈寿官先生を語る>

■単元設定について■

建国中学校では、毎年中2の春休みに4泊5日の修学旅行をする。鹿児島方面である。中学の修学旅行としては異例の長い日程である。これはひとえに第14代沈寿官先生にお会いして、お話を伺うためである。
13年前からの建国中学校の伝統である。

この修学旅行にあわせて、司馬遼太郎の「故郷忘じがたく候」を読むことも、建中2年3学期の恒例となっている。しかし、ホームルームで読んだり、日語の授業で読んだりはあっても、日語的に単元として構成された授業は今までなされていない。

今回、私にとっては初めての修学旅行の引率で、それにあわせて、「故郷忘じがたく候」を読ませることになった。この機会に、「故郷忘じがたく候」を日語単元として構成してみた。

■「故郷忘じがたく候」の作品観■

この作品は司馬遼太郎の歴史的随想とでも言うべきもので、いわゆる歴史小説でもないし、評伝でもない。歴史的感興をかきたてる第14代沈寿官という人物を題材にした長編エッセイである。

この作品は、中学2年生の日語授業の題材としては、教材化しにくい要素を持っている。ストーリーがはっきりしない、難しい字が多い、時間的飛躍が多い、歴史的話題が多いなど、中学2年生としては読んでも分からない、読みづらいなどの感想がでやすい作品と言える。
 今まで授業の中であまり指導がなされなかったのは、これら作品の性質によるところが大きい。
 しかし、時間軸を整理しながら読みなおしてみると、このエッセイはエピソードの積み重ねによって成り立っているものであることがわかる。しかもそのエピソードも4つの大きなグループに分類できることも分かってきた(後述)。
 つまり、作品全体を通して読まなくても、エピソードのいくつかを読めば、それだけのエッセンスを得ることのできる作品であるということである。全体を通して読んでこそ作品の主題に迫ることのできるというタイプではない。
 これは授業で取り上げるには好都合の性質である。作品全体を対象にするのではなく、グループ分けにしたエピソードを対象にした授業ができる。
 また、韓国人であることと薩摩焼きの伝統を守るということが、同質の<自分の原点を忘れぬ生き方>として重ねられ描かれている。韓国人であることと薩摩焼きの伝統を守ることが不即不離の関係で、どちらか一つでも欠けると<沈寿官>でなくなる。
 「在日韓国人としてどう生きるか」を抽象的概念としてではなく、薩摩焼きの伝統を守るという別の方法で具体的に示しているとも考えられる。
 つまり、「沈寿官先生の薩摩焼きの伝統の守り方、受け継ぎ方」を通して、「在日韓国人としてどう生きるか」を学ぶことができることになる。
 民族学校で、『故郷忘じがたく候』の授業をする意義もまさにこの一点にかかっている。


◆『故郷忘じがたく候』で何を読み取らせるか◆

エピソードを整理してこの作品をまとめてみた。

@沈寿官先生の人となり
A韓国人としての生き方
B薩摩焼きの伝統を受け継ぐ
C歴史的背景

 この4点に絞り込める。@がABにわたって出ている。AとBは一つのことを守り通す生き方として共通のものをもっており、両者が絡み合って@をかもし出すともいえる。@ABはエピソードを抽出してそれぞれのテーマでまとめることが可能である。
 Cは本文の二、三章にあたる。橘南谿の資料を使いながらの歴史的背景(文禄慶長の役とそれ以降の経緯)の説明の場面である。生徒には二、三章を丹念に読んで歴史的背景を克明に時間軸上に整理しなおす作業を課したい。
 生徒に課す作業としては

@沈寿官先生の人となり------------- エピソードをとおして沈寿官先生を語る
A韓国人としての生き方------------- エピソードをとおして沈寿官先生を語る
B薩摩焼きの伝統を受け継ぐ---------エピソードをとおして沈寿官先生を語る
C歴史的背景----------------------年表作成

となる。

◆授業の計画◆(全7時間)

クラスを5つのグループに分け、作業と発表会という形態をとる。

<作品分解>――――――5つの場面に分ける

1、初対面                            <沈寿官先生>
2、歴史的背景                         <年表>
3、2回目の対面(学校で殴られたエピソードを中心に) <韓国人として>
4、御前黒、十四代を継ぐ                  <伝統を受け継ぐ>
5、韓国旅行                          <韓国人として>

<年表>の班以外は、<エピソードをとおして沈寿官先生を語る>ということが中心になる。

  ※印象に残ったエピソード
  ※そのエピソードから読み取れる沈寿官先生の人となり
  ※自分の感想
  ※沈寿官先生にお尋ねしてみたいこと

この4つを各班で話し合いながらまとめ発表する。

特に4つ目は、直接沈寿官先生にお会いできるわけだから、自分の担当した場面で疑問に思ったことや、さらにくわしくお聞きしたいことをまとめさせたい。
3月26日、直接沈寿官先生からお話を伺う場面で質問できればよいが、たとえ質問できなくとも、目的意識や問題意識をもって沈寿官先生のお話を伺えるのではないかと考える。

◆授業の目標◆

1、一つのテーマに従い繰り返し読む   <読む>
2、読み取ったものをまとめる       <書く> 
3、グループで話し合う           <話す>
4、分かりやすく説明する          <話す>
5、発表を聞きポイントをメモする     <聞く>

■授業の流れ■(全7時間)

(3学期初めに「故郷忘じがたく候」の文庫本を全員に買わせ、読んでおくように言っておいた。今まで読書タイムとして1時間「故郷忘じがたく候」の読書にあてているが、クラスの4分の3の生徒はまだ読み通していない状態)

1時間-------------------------班分け、自分の分担個所の読書
2時間-------------------------各自まとめ
3,4,5時間-------------------班活動、発表準備
6時間-------------------------発表会-----------------------(本時)      
7時間-------------------------発表会つづき、まとめ

◆ここまでの指導の中で◆

 5時間目を終えた段階で感じていることは、とにかく難しい小説であるということである。割り振った短いエピソードでさえ読みあぐねているという状態の生徒が多い。
 <文章としての難しさ>と<盛り込まれている内容・情緒の難しさ>の両方が重なっているので歯が立たないという生徒がいる。班活動も結局は最初の割り振ったところまでで、あとは個人の作業が多くなった。
エピソードを簡潔にまとめる作業がなかなかできない。
 一人一人に作業を割り振ったので、作業の焦点ははっきりしていて作業はしやすいはずだが、内容としてこちらが要求しているものにこたえきれていない。
 終了式直前ということで、時間に追われ、見切り発進的な発表会になってしまった。

◆先生方にみていただきたい点◆

1、修学旅行直前の取り組みとして有効か

2、生徒たちはいきいきと活動しているか

3、「故郷忘じがたく候」の読書指導として適切な活動になっているか

《本時の目標》

1、ですます調ではきはきとした発表ができる

2、発表内容のポイントをしっかりまとめることができる

<本時の展開>

  学習活動 指導内容・留意点
導入 発声練習
発表のポイント確認
各自予行練習

評価表をくばる

黒板に発声練習表をはりつける。顔を上げさせる。
@ですます調 Aポイントの1文 B沈寿官先生に聞きたいこと
机間巡視で、練習不十分な生徒を指導する

ノートに貼り付けさせる

展開 発表開始

評価表記入

司会者 ○○
順次発表  間をあけない  テキパキ

(発表が全員終らなくても残り10分できる)

まとめ 発表会講評

 

授業感想

@発表会のよかった点 (話す時にはポイントをはっきりさせる)
A内容面での確認
  沈寿官先生の人柄確認  温厚(微笑) 強靭(逃げない)
   (強靭という言葉を教えたい、辞書を引かせる)

韓国人として生きる = 薩摩焼きの伝統を守る
     <植物の生き方>

        

<次時の展開>

発表会続き

まとめ――<韓国人として生きる=薩摩焼きの伝統を守る>の原点

        韓国旅行=自分探しの旅(自分とは何者か?)

        修学旅行(沈寿官先生に会いに行くこと)が君たちにとって自分探しの旅になるか?

 

 

以上、ご高評お願いいたします。