『100人の在日コリアン』を読む
<1998年度 建国中学校3年国語授業での取り組み>

1、はじめに
 1997年度の中3の授業で『仕事』という本を取り上げ、生徒一人一人に自分の興味のある仕事についてレポートしてもらいました。その発表会が2学期の授業参観になるように設定しました。
 中3の2学期という時期は、自分の将来について今までになくしっかり考える時期でもあり、生徒たちはそれぞれ精一杯自分の身にひきつけ考え、自己表現しました。取り上げた仕事が偏らず、多岐にわたっていたのもよかったと思います。
 楽しかったのは、授業参観当日、生徒の発表が終わった後、保護者の方にもお願いして(あらかじめ電話でお二方にお願いしておきました)「仕事」という題でスピーチをしたいただいたこと。これには生徒たちも驚いたようで、二人の子供の生徒は盛んに照れていましたが、教室全体がシーン聞き入り、親御さんのスピーチが終われば割れんばかりの喝采。最後は僕自身の「仕事」のスピーチ。とにかく、盛りだくさんの授業で今でも忘れられない授業です。
 その発展として準備した授業が『100人の在日コリアン』です。

2、『100人の在日コリアン』について
 『100人の在日コリアン』は良知会編、出版社は三五館。定価2,500円。
 在日コリアンのいろんな分野で活躍している人が100人取り上げられています。良知会のメンバーが分担して、取材し、読みやすい記事にしています。一人分のページは写真付きで上下二段組の3ページと決まっています。簡単すぎず、詳しすぎず、ちょうどいい分量で、本人たちの生の言葉を効果的に使いながら、上手にまとめてあります。「コリアン」という言葉からも分かるように、南北に関係なく、取り上げているところもいいと思います。また、職業にかたよりなく、さまざまな職業を取り上げていることろも。

3、授業の実際

A、国語の授業ごと(6月ぐらいから始めた)に1人分を印刷して、僕が読んだり、生徒が読んだりして、30数人分、紹介。

B、毎回読んだ後、ごく簡単な感想を書く。

C、11月初めの授業参観でこの発表会をすることを宣言。

D、各自、今まで読んだ中から一番印象に残っている人物を取り上げ、スピーチの準備をする。

E、授業参観当日、全員スピーチ。

4、生徒のスピーチ原稿(本人に許可を得てここに全文掲載します。当日どのような内容で、また雰囲気で授業が進行していったか、想像してください。)

 
     金秀吉さんと私

 金秀吉さんは映画監督です。私はまだ見たことはないのですが、代表作「潤の街」は、生野区を舞台に在日3世の潤が、自分の民族性を突きつめていく過程を描いているそうです。秀吉さんは主人公・潤に、自分の理想の姿を投影したかった、また、潤が在日の自分をつかむ姿を借りて、自分も変わりたいと思ったと言います。
 そんな秀吉さんの映画づくりの原点は、チャーリー・チャップリンです。映画の中ならいくらでも笑うことができます。でもチャップリンも秀吉さんも、本当はその笑いで、悲しみや怒りを伝えたいんじゃないのかなぁと思います。
 私が秀吉さんにひかれた一番の理由は、インタビューの最後の言葉にあります。
 「差別を売り物にしない在日像、前向きにおおらかに在日の未来を表現していきたい。」
 強い人だと感じさせられる言葉でした。前向きに、おおらかに、というのは自然に生きていくことにつながると思いましたが、「自然に生きる」というのも、人によってそれぞれ違います。なぜなら、人にはいろんな考え方や価値観があるからです。例えば、在日朝鮮人の中には、国籍や人種にこだわらないで地球規模の「地球人」として生きていこうという考え方をする人もでてきました。私はあえて、自分が在日朝鮮人であることにこだわって生きていきたいです。私も、もちろん地球人ですが、同時に朝鮮人の血が流れているのもまぎれもない事実ですので――。

 続けて、こんな言葉があります。
 「誇り高い一世の生きざまをわすれたくない。」
 ソンセンニムは、「生きざま」という言葉は好きでないと言われましたが、私は私のハラボヂやハルモニには、この言葉が似合っていると思います。「生き方」と言えるようなものよりもっと、強烈で、なまなましい人生だったからです。
 秀吉さんが言ったように、私が今ここにいるのは、一世のハラボヂ・ハルモニがいたからだということを忘れずに、また、秀吉さんが映画を選んだように、私も私にしかできない仕事を見つけ出して、朝鮮人であることに誇りをもって生きていきたいです。

5、『100人の在日コリアン』授業を通して考えたこと

 まず、在日韓国人が、自己同一視できる人物を知らないということを改めて知りました。在日韓国人として有名なのは芸能人であったり、スポーツ選手だったりで、かたよりがあります。いろんな分野で頑張って生きている人のことを生徒は知らなさ過ぎると思いました。そういう僕自身も、この本によって初めて知ることが多かったです。いろんな分野で在日コリアンが有名・無名に関係なく、一生懸命生きている姿は、在日韓国人の中3生にとっては非常に刺激的、感動的だったようです。
 社会に対する目を開くという意味でも、中3の2学期というのは絶妙のタイミングではないでしょうか。早すぎると他人事のようにとらえるでしょうし、受験が差し迫った時期では真剣に考える余裕がありません。
 もう一つは、授業参観で、親御さんの前で発表できたこと。実はこの授業のあと、学級懇談会があり、10数人の保護者の方とお話をしたわけですが、皆さん、子供たちのスピーチに感動してしました。冊子にして形として残してほしいとの要望も何人かから受けましたが、結局僕の怠惰のゆえに実現できませんでした。

6、最後に

 年に1回ぐらいは思い出に残る授業ができます。この学年は、このスピーチの1時間が思い出の授業として残りそうです。クラス全員が発表できたことと、終りのベルがなってもみんな静かに最後の発表者が終わるまで聞いていたこと、スピーチの途中で涙ぐんでしまった女の子がいたこと、教室の後ろには入りきらないほどの保護者の方がいたこと、など……。教えようとするのではなく、生徒に考えさせることの大切さと、生徒同士の横の感化の力を目の当たりにした授業でした。

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